昭和サラリーマンの追憶 

              

      

      教員の自腹・多忙・教員業務支援員

 

             前田 功


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


 学校での授業に使う教材や備品を自腹で買う教員が多いという話である。

 数年前に亡くなった友人だが、中学の教員をやっているのがいた。彼は、備品や生徒に配る教材を自腹で用意することがよくあると言っていた。と言っても、100均で買うことが多いとは言っていたが・・・。

 「なんできちんと公費として請求しないんだ」と聞くと、「手続きが面倒だから・・・」と言っていたのを思い出す。「教頭(今は副校長と呼ぶらしい)、校長、そして行政(教育委員会)に、業務としての必要性を認めてもらうために何枚も文書を作らなければならない。別の教材を使う場合、内容によっては、学習指導要領を批判する大論文を書かなければならないことにもなる。仮にOKになるとしても、OKになるまで何カ月もかかる。そんな時間はない」というのが彼の話だった。

 

 修学旅行の前に、「子どもたちに何が起きるかわからないから下見に行きたい」と校長に言ったが、「休みの日に行ってくれ」「旅費は出さない」と言われ、休日に自腹で行ったことがあるという話も聞いたことがある。 

 自腹について、一方では、こんな話もある。

川崎市の小学校で、教員がプールの電気関係のスイッチの操作を過り、数日後に気付いた。その間、プールの水が出しっぱなしになり、その水道料が190万円だったという。川崎市長は、その教員と管理者としての校長に95万円を損害賠償請求したという。ヒドイ話だ。そもそも、プールに水を入れる仕事は教員のやるべき業務なんだろうか。

 民間会社では考えられない話だ。業務上の過失による損害は会社が負担するのが常識だ。(こういう常識を守らない会社はブラック企業と呼ばれる。)

 学校という世界には、自発的強制的両面で、自腹が染みついているのかもしれない。教員の世界も、政治の世界同様、世間の常識が通用しない世界なんだろうか。

 

 定額働かせ放題だと教員の残業代が問題になっている。残業代分が教職調整手当として基本給の4%が支給されているが、それを2.5倍の10%にするらしい。基本給月額30万円の場合、手当はその4%なら12,000円。10%なら3万円。確かに手当は増えはするが、定額(低額?)には変わりない。

 マスコミでは、調整手当をやめて残業した時間全部残業代を出すべきだという意見も飛び交うが、それで問題が解決するのだろうか。自腹が蔓延している世界だ。サービス残業が蔓延することは誰にも予想できる。 

 仕事が多すぎるというのが多くのまじめな教員のホンネなのではないか。 

 教員にやらせている仕事が多すぎるのだ。プールに水を入れたりする仕事までやらされているのだ。それも教員の大事な仕事という理屈もありはするだろうが、そういう雑務に時間をとられて、長時間勤務になっているのではないか。

まじめな多くの教員は、授業準備など教員にしかできない仕事をもっとやりたいと思っているはず。

 

 数年前、「ドクターX」というドラマがあった。かっこいい女医が、ゴマすりのための会議や雑用を、「私、医師免許の要る仕事以外いたしません」と拒否するのが面白かった。教員も、「教員免許の要る仕事以外いたしません」と叫ぶべきではないか。

 

 テレビや新聞であまり報道されず、私も知らなかったが、学校教育法施行規則には、教員が業務を円滑に実施できるよう支援する職員として「教員業務支援員」というのが規定されている。スクール・サポート・スタッフなどとも呼ばれているそうだ。

文科省のサイトによると、教員業務支援員の具体的な職務内容は、主に次のようなものだ。

〇学習プリントや家庭への配付文書等の各種資料の印刷、配付準備

〇採点業務の補助

〇来客対応や電話対応

〇学校行事や式典等の準備補助

〇各種データの入力・集計・掲示物の張替、各種資料の整理等の作業

また、上記以外の職務内容についても、教員の業務の円滑な実施に必要な支援に該当するものであれば、従事することを妨げるものではなく、例えば、新型コロナウイルス感染症対策のための清掃活動(消毒作業を含む。)や子供の健康観察の取りまとめ作業についても従事可能である。 

 この「教員業務支援員」は制度化されてすでに数年経つ。現在、1校に1人くらいはいるのかもしれない。ただ、少なすぎるためか、教員多忙の議論の中では存在感がない。何十人もいる教員が毎日、何時間も残業しているのなら、この要員を必要なだけ採用して、上記のような職務をやってもらえばいいのではないか。プールの準備もしてもらえばいいではないか。そうすれば悩ましい問題は解決するのではないか・・・と思う。

 

 この支援員の増員、そしてそのための予算措置が、国会や地方議会で議論されず、またテレビや新聞でも報じられないのが不思議でならない。