暇工作「AIに支配されるAmazon配達員」

    ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー        


 アマゾンは便利だ。スマホやパソコンで商品を注文すれば、早ければ翌日にも届く。暇も読みたい本の殆どはAmazon経由で購入している。だが、その便利さはアマゾンで働く労働者たちの過酷な労働で支えられている。家までの「ラストワンマイル」を担うのは、業務委託契約で配る配達員だ。彼らは、独自の人工知能(AI)をもちいたアルゴリズム(計算手順)で管理されている。

 

 同社の配送事業にAIが使われるようになったのは2021年頃。荷物量は当日朝、AIに決められるようになった。配達員はスマホのアプリを通じ、配達コースや個数、時間指定などの指示を受け、走行ルートを管理されながら配る。報酬は、荷物量がどんなに増えても、定額の「日当制」。

 導入後、それまで1日80~90個だった荷物量が、1日200個を超えるようになった。

 配達員のある男性はその過酷さを次のようにいう。

 「配達コースに慣れれば配る速度は速くなる。それをAIが覚えてさらに(荷物を)詰め込んでくる。最近最も多かったのが1日280個。毎朝お腹が痛くなる。そして一番きついのが悪天候を全く考慮してくれないこと。人間にはない働かされ方を強いられる」

 1日の就労時間は朝8時から夜9時に及ぶ。

 別の配達員の男性は「荷物を車に積み込む時間を除けば実質の配送時間は7~8時間。その間はずっと動きっぱなし。アスリートでも体を壊すだろう」。男性は仕事中の事故の影響で、休業、リハビリ中だ。

 

●AIに「なぜ?」は通用しない?

 

 NPO法人アジア太平洋資料センターの内田聖子共同代表は「毎朝280個を配れと人間が指示したら、当然『なぜ?』というやり取りがなされるはず。それが新技術の導入というだけで理由を開示しなくていいとなるのが、デジタル技術を使った労働の最大の問題だ。AIの計算プロセスと決定に労働者がしっかり関与しようという運動が世界中で広がっている」と述べ、「透明性」を求める運動を呼びかけているが、まさにその通りだ。

 欧州連合(EU)では3月、アマゾン配達員のように委託契約でインターネットを通じて働く「ギグワーカー」を保護する指令(法律)が採択された。解雇など、処遇をAIが勝手に決めるのではなく、人間の監視を確保するよう定めている。

 

●委託契約で尊厳と権利奪う

 

 もう一つの特徴が、最低賃金や労働時間規制、労災補償など労働者保護ルールを受けにくい委託契約で働かせていることだ。しかし、就労の実態はアプリの指示を受けて働く「労働者」。欧米ではアマゾン配達員を労働者と認める司法判断が相次いでいる。

 日本では特に労働災害の多発が深刻だ。委託契約のため、一般の労働者のようには労災補償を受けられず、すぐに生活が困窮してしまう。

 前述の配達員らは22年6月、荷物量の軽減などを求めて、神奈川県内の物流拠点で同僚たちとともに労働組合(東京ユニオン)を結成した。

 その後、アマゾンに対する団体交渉申し入れをはじめ、組合員への「解雇」撤回訴訟、残業代請求訴訟など、労働者としての権利と尊厳を求めている。

 昨年秋には組合員の仕事中のケガを、横須賀労働基準監督署が労災と認定した。一般の労働者と認めたのと同じ効果があり、今後の権利確保の足がかりになるだろう。

 AIが関わる労働にどう向き合うか。損保を含むすべての労働者にとっても避けて通れない課題だ。

 

〈写真〉国際キャンペーン「メイク・アマゾン・ペイ(アマゾンは責任を取れ)」に連帯する行動として、インターネット通販大手アマゾンの荷物を配送するドライバーらがアマゾンジャパン本社前で抗議の声を上げた。荷物量の軽減や団体交渉に応じるよう求めている(2022年11月25日、都内本社前)