真山 民「現代損保考」

       しんさん・みん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。


                            病膏肓の損保業界、次々露見の不正行為           


 大手損保、団体扱保険料でも事前調整

 

「病(あるいは疾)膏肓に入る」 やまいこうこうにいる、と読む。魯(ろ)の歴史を書いた『春秋』の解説書『春秋左氏伝』(左伝)にある言葉だ。病が重くなった晋(しん)の景公が、二人の童子となった病魔が「肓(横隔膜)の上と膏(心臓)の下の間に逃げれば、医者は治療の方法が無い」と話している夢を見た。その故事から、不治の病にかかる、また病気が重くなって治る見込みが無い、という意味から転じて、悪癖や弊害などが手の付けられないほどになるという意味にも使われる。次から次へと不正をさらけ出す損保業界、大手損保と自動車ディーラー、および大企業の別動隊代理店のつながりは、まさに「病膏肓に入る」状態を表わしている。

 

「昭和サラリーマンの追憶」筆者の前田功さんは、先月号で「次々に出る大手損保の不正」として、ビッグモーターをはじめとする自動車関連代理店の自動車保険金の不正請求、企業保険をめぐる大手損保4社のカルテル疑惑の他に、次の事実を挙げている。

 ●大手損保4社による企業や団体の従業員向けの自動車保険の団体扱保険料の調整(一般の契約者より安い保険料提供)。

 

●自動車や背広など、契約先企業の商品やサービスを購入する「本業支援」という「慣行」。

 

 「本業支援」は、大口契約を結んでいる大手企業や、その別働体代理店の要求に損保各社が従い、時には積極的に協力して契約の獲得をもくろむ行為といえる。 

また金融庁に不正を過少申告、損保ジャパン

 

 しかし、これで損保業界における不正が出し尽くされたわけではない。6月に入り、各紙が新たに不正を報じた。

 一つが、企業向けの保険料について、損害保険ジャパンが他の大手損保と事前調整した問題で、独禁法違反の疑いのある件数を金融庁に過少申告していた事実。弁護士らをメンバーとする同社の社外調査委員会の報告書によると、東急グループ向けの保険契約について、弁護士が「独禁法に抵触する疑いがある」事例を指摘したにもかかわらず、同社の法務・コンプライアンス部が「経営陣の意向を踏まえ、より悪質性の低い区分に変更」したという。さらに、同社の役員アンケートの回答を社内の担当者らが、内容を一部削除して金融庁に提出していた事実も判明している(時事ドットコムニュース 6月17日)。

 

 損保ジャパンはビッグモーター(BM)の自動車保険金不正請求についても、金融庁に「BMの工場長らによる社員に対する保険金不正請求の指示は確認できなかった」と虚偽報告している。性懲りがないというか、病膏肓極まる損保ジャパンである。

 

顧客情報を共有するメガ損保

 

もう一つ、損保各社の契約者情報が、自動車ディーラー代理店などを通じて他の損保に漏洩していたことが発覚、金融庁が調査に入った。少なくとも2018年から行われ、関与した代理店は延べ850社を超えるという。朝日新聞(6月19日)によると、漏洩の疑いのある代理店は、東京海上日動火災が238社、損害保険ジャパンが268社、三井住友海上火災が151社、あいおいニッセイ同和損保が176社である。

 ①ディーラー本部が所有する自動車保険契約情報を傘下の店舗に流す、②自動車の購入や新車発売のイベントに協力することによって、当該店舗をテリトリー(担当地域)として割り当てられている損保社は、ディーラー本部から店舗に送られてきた他社の自動車契約を自社に切り替えてもらう、という仕組みだ。明らかな個人情報違反であり、また契約者の意向を無視した行為にも通じる。

 

金融証券保険業界にもはびこる情報漏洩

 

先月は、金融証券業界でも大がかりな情報漏洩事件が発覚した。三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)傘下の銀行、証券2社が、顧客企業の経営に関する重要情報を、その企業の同意を得ずにグループ内で共有していた。証券取引等監視委員会はFG傘下の銀行、証券2社を行政処分するよう金融庁に勧告、勧告を受け、金融庁は3社に業務改善命令を出す意向を固めている。

 

 金融商品取引法には、同じグループの銀行と証券会社による顧客情報の共有を制限する「ファイアウォール規制」がある。今回の事案では、顧客企業の政策保有株式の売り出しに関する非公開情報を三菱UFJ銀行がグループの証券会社との間で共有していた。あるいは、銀行の専務執行役員が三菱UFJモルガン・スタンレー証券の代表取締役副社長に情報を提供した。このような行為はすべて「ファイアウオール規制」に違反する。損保についていえば、BMや自動車ディーラーは、しょっちゅう「ファイアウオール規制」に抵触した行為を繰り返し、損保はそれを黙認しながら、契約を回してもらうよう依頼してきた実態を示している。。欧米の損保業界は、自動車ディーラーや整備工場に代理店を委託していない。契約者と代理店間の「利益相反」、取引の当事者同士が共に利益を得られるのではなく、どちらかが不利益を被ることになることが多いからだ。 

 

 代理店処分を迅速にして不正が根絶できるか?

 

 金融庁は、損害保険業界で相次いだ不祥事を受けて有識者会議を設置し、損保代理店への処分権限を持つ自主規制機関の設立を検討するよう提言、保険業法改正を視野に、2024年度内に議論に着手する。

 

 有識者会議は自主規制機関の設立を視野に、保険代理店と利害関係のない第三者が代理店の業務品質を評価する枠組みを業界内に設置するよう提言する。しかし自主規制機関を設置することで、不正を根絶できるのか? 事はディーラーや整備工場など自動車関連代理店、企業別動体代理店の存続にも関連する。次号で、「自主規制機関」について述べてみたい。

 

*ファイアウォール規制 銀行業務と証券業務の間における情報の隔壁。利益相反の防止、不正な取引を規制するために設けられている。