斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

     からめ手で人を追い詰める卑しさ


 さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。


 もう現金では路線バスの運賃を支払えなくなりそうだ。国土交通省がキャッシュレス支払いに限定したバスを認め、今秋から全国約10路線で実証的な運行を始める。かねて業界が求めてきた方向にGOサインが出た形だ。

 すぐに、ではない。まずは7月3日に発行される新紙幣に「対応しない」ことから始めるという。日本バス協会の清水一郎会長(伊予鉄バス社長)はNHKの取材に、「運賃箱を入れ替えると1台200万円ほどかかることもあり、コスト面で大きな負担だ」「バス業界としてはこれをきっかけに完全なキャッシュレス化を目指していきたい」と語った(6月26日放送)。

 さもありなん。タンス預金を吐き出させる狙いばかりが云々される新紙幣だが、それは毎度の話。今回はそれプラス、現金決済を封じるための新紙幣に違いないと、筆者は踏んでいた。というのも――。

 新紙幣が発行されれば、自動販売機や券売機、セルフレジなどを設置している企業や店舗は、買い替えやシステム更新が求められる。相当な資金が必要だから、行政は当然、補助金や助成金を用意していなければおかしい道理だ。

 零細業者らの証言を総合すると、そうではないらしい。一部例外を除くと、単純な買い替えではダメで、省力化その他のプラスアルファがないと、相談に乗ってくれないのだとか。とすれば新紙幣への対応より、国策たるキャッシュレス化を促す機種に、という流れになるのは必定だ。

 したがって新紙幣は、監視社会のより一層の強化・深化をもたらす導火線になる。誰がいつ、どこで、何を買い、どこに行くのか。私たちの一挙手一投足が、キャッシュレス決済を運用する企業や政府に筒抜けになっていく。

 何よりも、そうやって搦手(からめて)で人間を追い詰めていく手口の卑しさに反吐(へど)が出る。為す術もなく追い詰められていく自分自身も、たまらなく嫌だ。