「男女平等」が進むスポーツ界で「トランスジェンダー」はどうなる?


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 

 

 アメリカのペンシルバニア大学で活躍していた水泳選手のウィリアム・トーマス選手は、自分の「性」が男性ではなく女性であることを自覚。名前もリア・キャサリン・トーマスと改め、男性ホルモンで筋肉を増強するテストステロンの分泌を、ホルモン療法で女性の平均値にまで下げ、選手登録を男子から女子に変更。NCAA(全米学生体育協会)の女子500ヤード(457m)競泳で優勝して、全米学生女子競泳ランキング1位となり、パリ五輪を目指していた。

 しかし世界水泳連盟(WA)はトーマス選手が女子選手として国際大会に出場することを拒否。それに対してトーマス選手は、WAの裁定を不当として国際スポーツ仲裁裁判所に訴えた。が、6月13日、仲裁裁判所もトーマス選手の「国際的女子選手の試合への出場を認めない」との裁定を下したのだった。

 WAはトーマス選手のような「トランスジェンダー」の選手に対しては、5段階ある性的成長の2段階目(12歳前後)までに性転換を主張した選手はそれを認めるが、それ以降の主張と性転換は認めない、とのルールがあり、トーマス選手の性転換の主張は遅すぎたと判断。仲裁裁判所も、その判断を認めたのだった。

 パリ五輪は、陸上競技や競泳や柔道などで男女混合のリレーや団体戦を数多く採用。男女の出場選手が同数で、過去の男子中心(男性選手が多数)だった大会と決別し、完全な男女平等大会となるはずだった。が、新たにトランスジェンダーの問題が勃発。

 大学を卒業した25歳のトーマス選手は、人権を扱う弁護士を志望して法律学校(ロースクール)への入学を目指しているそうだ。が、スポーツで男女を峻別する定義は明確でなく、近い将来トーマス選手は、活躍の場がプールから法廷に変わりそうだ。