「正社員」の謎(6)

     

                        竹信 三恵子


 たけのぶ みえこ  朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。


  コース別人事の亡霊(中)

 

 前回、述べたように、今年5月の「AGCグリーンテック」訴訟判決では、総合職だけに「社宅制度」が適用されているのは事実上の女性差別として、原告の一般職女性が勝訴した。

 同社では、ほぼ全員が男性の「総合職」とほぼ全員が女性の「一般職」に社員を分ける「コース別人事管理」を導入している。そうした中での「総合職」のみへの適用が、一見、性別に関係ないようで女性に不利な制度によって女性が不利益を被る「間接差別」にあたると判断された。

 この勝訴が意味を持つのは、日本での「間接差別」の適用範囲が、これによって大きく広がることになったからだ。

 前回述べた1990年代からの賃金差別訴訟の続発を機に、日本でも2007年施行の改正男女雇用機会均等法に、「間接差別の禁止」が規定された。

 ところが、「採用のときに仕事に関係ないのに身長・体重・体力の制限を設け、男性と体格が異なる女性を排除すること」などの三つだけが禁止の対象になり、ほかはお構いなしとなった。

 これではせっかくの禁止も絵に描いた餅だ。

 だが、今回の判決は「合理的な理由がなければ違法とされる場合は想定される」とし、裁判で勝てば間接差別とされる対象を増やしていけることになった。

 欧米の間接差別はこの方式だ。日本の女性たちは17年かけてようやくそこにたどりついたことになる。

 ただ、この判決は、福利厚生についてのもので、もうひとつの訴えだった賃金差別については認められなかった。

 それはなぜか。そこに、「2024年のジェンダーギャップ指数118位」を生み出した日本の大きな男女賃金格差の決定的な要因が見えて来る。