雨宮処凛の「世直し随想」

 

 

     強制不妊手術裁判


 あまみや かりん 作家・活動家。フリーターなどを経て2000年,自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年,太田出版/ちくま文庫)で日本ジャーナリスト会議賞受賞。


「元の体に戻してほしい」「私の人生を返してください」

 そんな悲痛な声に幾度も触れてきた。

 それは旧優生保護法(1948~96年)のもと、強制不妊手術を受けさせられた人々の声。「不良な子孫の出生を防止する」という旧法のもと、実に約2万5千人が強制的に不妊手術を受けさせられてきたという。手術を受けさせられた人々が国を訴え始めたのが2018年。以来、全国各地で39人が原告となり、裁判を闘ってきた。

 そんな優生保護法をめぐる5件の訴訟の上告審で、7月3日、最高裁の判決が出たのだ。結果は、原告側の勝訴。旧法を「立法時点で違憲だった」とし、国に賠償を命じる判決を言い渡したのだ。「みんなの思いが報われたのだ」と身震いする思いだった。しかし、勝訴しても彼ら彼女らの人生は返ってこない。

 今年3月の集会では、70代の原告男性のことが紹介された。変形性関節炎で足を引きずる程度の障害があった男性は、10歳頃、なんの説明もなく睾丸(こうがん)摘出手術をされたという。生涯の中で2度ほど結婚の話があったが、「断種した自分では相手を幸せにしてあげられない」と断り、自殺未遂をしたこともあったという。その男性は今年2月、判決を待たずに79歳で亡くなっている。

 手術を受けた中には、すでにこの世にいない人も多いはずだ。無念のままに亡くなった人もいるだろう。もう二度と、こんな悲劇があってはならない。改めて、そう思った。