「地震も憎いが知事もひどい

 

 

           山口 道宏

 

 


 やまぐち・みちひろ  ジャーナリスト・元星槎大学教授  主著に『老夫婦が独りになる時』『東京で老いる』『男性ヘルパーという仕事』『無縁介護』『申請主義の壁』『ドキュメント ひとりが要介護になるとき。』がある。日本ペンクラブ会員。 


   血も涙もない馳知事の「滞留」発言に能登の被災者は怒り心頭だ。 

 この厳しい暑さのなか、どうしているのか、能登の人々だ。

そんななか、馳浩石川県知事の「とんでも発言」に、被災者は怨嗟と無念さに悔し涙をのんだ。

 7月25日。東京都で開かれた能登半島地震で対応した関係府省庁の職員を前に「自宅にも戻れない、障害のある方など、所得の低い方が1次避難所で滞留している。この方々をいかに支えていくかも私どもの使命だ」と語った、と読売新聞(7.29付)が報じた。

 同知事は「滞留している」?? と公言したという。

 「自宅に戻れない方」「障害のある方が」「所得の低い方が」、その対象者というのだから聞き捨てならない。というのも自然災害では真っ先に救助対象は社会的弱者の人々、とは行政マンならいまさら確認する要もない。その場に居合わせた職員の多くが啞然とした。

 石川県内の体育館や公民館などに開設された1次避難所数は、輪島市や珠洲市など6市町で55カ所、ほかの市町民を受け入れる広域避難所も7カ所 、避難者数は合計で835人になるという(7.9時点)。 避難者の多くは、仮設住宅の入居待ちや、自宅修繕中の被災者だ。同県は「8月末まで約 6700戸の建設を完了、希望者はほぼ全員、入居可能を目指す」としていたが、ここにきて珠洲市と内灘町の一部地域で完成が9月になることが分かった。

 

 それにしても、さきの馳知事の心無い発言だ。地震という自然災害で窮状にある生活者に対して被災地の行政トップの発言だけにバッシングは当然だ。この人に被災当事者への共感的理解は甚だ乏しいと言わざるを得ない。

 「滞留」とは「物事が進展せず同じところにとどまっていること。物資の---」(広辞苑)とある。これだけで、すなわち対象は「モノ」であり「ひと」ではない。今回の発言は行政処分にみる廃棄物処理と同列の扱いとみていることの証左になった。なお「物事が進展せず」は、むろん被災者の責でなく、ブーメランは馳知事自身に帰ってくるは必至だ。

 ことは人権問題に飛び火しそうな気配だが、よりによって知事はプロレスラーの前は高校の国語教師だった?? というから、ただただ詫びるしかない。

 首長の資質は兵庫県・斎藤知事と同レベルか!? 斎藤知事にあっては2人の現職の県職が知事のパワハラ疑惑を理由に亡くなっているが、いまだ知事の席に「滞留」している。

 

 過日、「維新の会」(維新)馬場伸幸代表は「関西・大阪万博は能登の復興につながる」と言った。それは「東京五輪は東北復興に」とそっくりの弁法だ。2025年開催予定の「関西・大阪万博」が今回の能登大地震で哭いている数万人の被災者に元気をもたらすという。

 この発言に当該の石川県馳知事は怒るどころか「やるべきだ」と語った。震災死や負傷者、その家族をはじめ、住み慣れた家屋は壊れ、水を求め、寒中に避難所や車中泊、体育館やビニールハウスで過ごす人々は、それを聞いて何を思うのか!! 地震被災地の首長だけに被災者にさらなる涙を誘った。

 そうでなくても今回の震災対応では県の対応は「後手後手」と指摘された。馳知事は救済の困難さを、被災地の「地形」と「高齢化」にあると平然と答えた様子が報じられ被災者の痛みを増幅させた。馳知事は自民党籍のまま「日本維新の会」の顧問?? という。

 

 「地震も憎いけど知事もひどい」と悔し涙を流す人々。うろたえ、黙りこくったままの被害者は、ゴールが見えないなかで屈辱感をいだき、やがて嫌悪、憎悪に至る。そして堪忍袋の緒が切れたとき、人は動く。

 はっきり言おう。この人には自治体トップの資質はない。次の選挙まで待つしかないのか。いやいや、がれきの町から「リコール」がいい。 2024.8.6記