今月のイチ推し本

 『在日米軍基地』川奈晋史 中公新書2789


                       

         岡本 敏則

 

    おかもと・としのり 損保9条の会事務局員

 


 

 第二次世界大戦の戦死者(兵士)、米軍41万人、英軍38万人、太平洋戦争では米軍16万人、英軍8.5万人。その代償は。

 

 ◎日本にいる米軍の二つの顔=「表」の顔である在日米軍としての米軍と、「裏」の顔である国連軍としての米軍である。前者についてはよく知られているが、後者についてはほとんど知られていない。日本にいる米軍は必要に応じて、この二つの顔を使い分けることができる。米軍は本当に日本に防衛するために日本にいるのだろうか。そもそも基地にいるのは米軍だけなのか。これらの疑問に答えるためのカギが、米軍の「裏」の顔である国連軍の中にある。ここでいう国連軍とはいわゆる「朝鮮国連軍」のことである。今から70余年前、朝鮮戦争勃発(1950年)の際の国連安保理決議に基づき、「武力攻撃を撃退し、かつ、この地域における国際の平和と安全を回復する」目的で創設された。後方司令部が、今なお東京(横田基地)にある。国連軍としての米軍には、様々な特権がある。最大の特権は、米軍以外の国連軍、すなわち友軍に在日米軍基地を「又貸し」できることである。その際、日本側の同意を得る必要はない。又貸しされた基地は、在日米軍基地であると同時に、国連軍後方基地とよばれる。現在、それは日本に7か所ある。本土に4か所(横田、座間、横須賀、佐世保)、沖縄に3か所(嘉手納、普天間、ホワイトビーチ)である。2023年現在、日本にある後方司令部(横田)には豪軍出身の司令官他3名が常駐し、豪州、英国、カナダ、フランス、イタリア、トルコ、ニュージーランド、フィリピン、タイの9か国の連絡将校が在京各国大使館に勤務しているとされる。

 

 ◎国連軍地位協定=国連の旗(鳩にオリーブ)を掲げる限り、米軍を含めた国連軍は基地での活動について事実上、日本の同意を得る必要はない。部隊は平時から日本国内で自由に軍用機、船舶、人員、物資を移動させ、日本国内の訓練施設を含めた米軍基地ネットワークを利用できる。国連軍地位協定、日本が国連軍との間で締結している協定であり、日米安保条約や日米地位協定と並んで日本の安全保障に重要な意味を持っている。日本の安全が米国との二国間同盟によってではなく、実際には多国間の安全保障枠組みによって保全されていると考える論拠となる。2020年代に入り、日本では国連軍の動きが活発化しつつある。米中関係が緊張し、東シナ海、そして台湾情勢が流動化しているからだ。2021年には英軍、豪軍、オランダ軍、フランス軍が米軍と共同訓練を実施するという名目で在日米軍基地に入った。その際、一部の軍隊が国連軍の旗を掲げて日本に入っていたことはほとんど知られていない。米軍/国連軍の問題は歴史の中ではなく、今まさに我々の眼前にあるのである。

◎普天間基地=普天間海兵隊飛行場が持つ軍事的機能と、能力を移転するのであれば、朝鮮有事において反撃の拠点となる航空施設として利用可能なもう一つの国連軍基地が、米海兵隊および他の国連軍参加国に提供されなければならない(SACO)。つまり何よりも満たさなければならない条件とは、普天間が持つ国連軍基地としての能力を維持することである。「普天間に展開する海兵隊地上部隊と航空支援部隊は朝鮮有事の作戦計画において決定的な役割を果たしている」(米軍)。国連軍基地の根拠は、あくまでも日本と国連軍参加国のあいだにある国連軍地位協定によって見出させる。国連軍基地のステータスを残すとすれば、県外移設は可能でも国外移設はできない。普天間の現有能力の中には、沖縄における他の海兵隊基地との連携とチームワークによって得られる能力、すなわち必要な時期と場所に、必要な装備と部隊を展開させる能力が含まれるからだ。兵站施設(キャンプ・キンザー)、演習場(北部訓練所、キャンプ・シュワブ等)、飛行場(普天間)、海軍施設(ホワイトビーチ地区)が、互いに近距離にあり一体的に運用することが、米軍の即応性、効率性を担保している。鳩山は普天間問題に政権の命運を賭していた。実際これに躓いた鳩山政権は2010年に総辞職している。もし本当にこのタイミングで普天間が国連軍基地であることを「知らなかった」とすれば、外務省、防衛省との意思疎通はもとより、主要閣僚とのあいだでも、そして民主党内においてさえ協力体制が十分でなかったことになる。辺野古に新設される基地が今後、新たに国連軍の基地に指定されることはほとんど確実である。辺野古の基地が完成し、十分に運用可能になった段階で、合同会議を開催し、参加国を交えた会議において、国連軍地位協定第5条2項に基づき国連軍基地に指定することになろう。

 

 ◎基地と日本防衛=米軍による防衛行動の下限は、おそらく米軍基地防衛である。米軍は合衆国憲法に規定された任務上、米軍の財産である基地・施設及び兵員・家族を含めた米国民を保護する責任を持つ。ゆえに、在日米軍基地を守る。そしてそのことは、結果として日本の安全保障への強力な関与になる。基地を守ろうと思えば、おのずと基地の周辺を守らなければならないからである。基地の周辺地域は戦争への巻き込まれる危険性も高いが、一方で米軍の直接防衛区域に入る。当然、米軍基地の防衛には自衛隊も加わる。これが日本の集団的自衛と個別的自衛が交叉する領域だ。米軍の抑止力の狭義が明らかになる。日本に対する攻撃があった場合に、米軍への被害が確実視されることが、敵の行動を躊躇させる、これはトリップワイヤーと呼ばれる考え方である。米軍が望むと、望まざるとのかかわらず、日本の有事に引きずり込むための仕掛けを意味する。日本はそれを逆手に取り、米軍を「人質」にとることができる。これが日本から見たときの米軍のもっとも効率的な抑止力である。この抑止は日米安保の不確実な「コミットメント(関与/約束)」にでなく、米軍の存在自体に由来する。日米安保条約の解釈が変わろうが、米軍の装備がいかに更新されようが、基地が持つトリップワイヤーとしての機能は不変である。

*日米安保条約が廃棄されても、国連軍、国連軍地位協定が存続する限り、米軍は国連軍の帽子をかぶりその傘下で日本に居続けられる。

 

 ◎川名晋司氏は1979年生まれ、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専門は米軍の海外基地政策。