現代のスポーツは未来のAI(人工知能)社会の先駆けか?


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 

 

 「最近のメジャーリーグの野球は頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」

 これはイチロー選手が引退会見の席で口にした言葉だ。

 この言葉から思い出されるのは、大谷翔平選手をはじめ、メジャー選手の多くが、ベンチでタブレット(コンピューターの端末)の画面を凝視している姿である。

 その画面には、もちろん相手投手が投げる球種(直球やカーヴやフォークボールなど)の割合や決め球の種類や、そのコースなどが表示されている。が、それだけなら過去にスコアラーが調べていたデータと変わらない。

 最近はあらゆる投手の全ての試合映像がビッグデータとして蓄積され、それをAI(人工知能)が分析。大谷選手(長身の左打者)なら初球はどんなコースのどんな投球を狙え! といった指示までしてくれるというのだ。

 以前は選手個人が経験によって身に付けた記憶や知識、そこから考え出した予測や勘の働きを、最近はAIがやってくれるというわけだ。

 野球だけではない。サッカーでもプロ選手のプレイスタイルは全てビッグデータとして蓄積。ゴール前でシュートする選手の動きの特徴は、対戦相手のディフェンス選手に伝えられているという。チームの弱点もデータ分析され、対戦チームは試合前にそのデータに基づき、どのサイドからどのような攻撃をするかを、ミーティングで徹底的に頭に叩き込まれるという。

 最近のサッカーでは選手のPKをキーパーが止めるケースが増えたが、それも選手の癖(蹴る方向)をAIがデータから分析した結果だという。

 つまり現代のスポーツはコンピューターの分析(思考)と人間の身体が合体したパフォーマンスと言えるのだ。これが我々の未来の姿かも?