「女性の過労死」
竹信 三恵子
たけのぶ みえこ 朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
(3) お気楽な格付け
前回は、家事労働者過労死訴訟で東京地裁が、「本件介護業務は訪問介護計画書に基づいて行われる業務であって一定程度定型的な業務が主体」とし、その精神的負荷を軽視した出来事についてふれ、「定型的な業務」とは何かという疑問で締めくくった。
「定型業務」について、ある人材サービス会社のサイトは次のように定義している。「決まった業務フローが明確に確立されている業務」「また、毎日または毎週のように定常的に行う必要があり、常に同じ品質の結果や成果物が求められる業務」。それらはルーチン化しているため、マニュアルを作成すれば外部委託も可能、という。
これに対し「非定型業務」は、業務フローの確立が難しく、その都度異なる方法や対応が求められる業務」で、熟練の経験や知見が求められることが多い。だから委託は難しい。
亡くなった家事労働者の女性は、家族の要請や指示に応じて臨機応変に家事と介護を組み合わせ、被介護者の重い症状に昼夜なく対応するという熟練が必要なものだった。
訪問介護計画書も、その通りに実行すれば誰にでもできる「マニュアル」ではなく、アレンジして業務に落とし込んでいく判断作業なしでは機能しない。
このように「女性の過労死」は、その労働を担ったことがない部外者の「お気楽さ」によって、負荷が見過ごされた結果起きる。
それは、家事や介護サービスを安く提供する側と、それらによって有償労働をこなし経済力をつけた側との権力の格差とでもいったものに支えられている。
「女性の過労死」が表面化しにくいのは、多くの女性たちが、こうした格差の下で自身の仕事の負荷の重さを意識化できずに来たからではないのか。