斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」
新自由主義と闘い続けた森永さん
さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。
心にぽっかりと穴が空いたような気持ちだ。これからの日本社会がますます必要とし、私にとっては最大の理解者でもあった人物が、いなくなってしまったから。
新自由主義の批判などで知られた経済アナリスト・森永卓郎さん、67歳。一昨年の末にステージ4のすい臓がん(後に原発不明がん)で、余命4カ月と宣告されてからも、ラジオに出演し、本を書きまくり、と精力的な仕事を続けていた彼が、先月28日…。
初めて会ったのは、森永さんがまだ三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に在籍中の2000年代初頭だったと記憶する。ある集会で、同じステージに上がった縁だった。
すでに社外での活動が目立っていた彼は、その後、活躍の場をどんどん広げていく。バラエティー番組の道化役をも器用にこなす姿が忍びなく、「何もそこまで…」と水を向けたら、「格差社会の構造は、難しい記事や論文だけでは伝わらない。みんなに理解してもらうために、僕はやっている」と返された。それ以上は何も言えなかった。
雑誌の対談とかトークショーとか、いろんな場で議論を交わした。2人で酒を飲むような付き合いはなかったが、『機会不平等』(岩波現代文庫)をはじめとする拙著に、しばしば好意的な書評を寄せてくれた。新自由主義に対する生理的な皮膚感覚を、私たちは共有していたように思う。
子ども向けの小説『いちばんたいせつなもの』(新日本出版社)を発表した際には、最高の賛辞をいただいた。小学3年生の時の体験を基にした物語なのだが、森永さんは、「私はむしろ大人たちに読んでもらいたい。大部分の大人が、保身のための忖度に走り、日本を劣化させているからだ」と(『日刊ゲンダイ』2021年4月12日付)。
森永さんを失った日本社会は、今後どうなっていくのか。不安でならない。合掌。