暇工作   「個人加盟労組加入の方法 A君の場合」

    ひま・こうさく 元損保社員・個人加盟労組アドバイザー        


 

 かつて早期退職制度を活用して会社を去った友人が、別企業に再就職することになった。その会社の入社説明会で、「当社に労働組合はあるが、あなたは契約社員だから、組合には入れません」と言われたそうだ。

 ここで大概の人は「ま、そんなものか」ですましてしまうのだろう。だが、それでは、あまりも反応が鈍い。暇に言わせれば、無知と、自らの権利意識の希薄さの露呈だ。

国民には誰にも憲法25条で保障された「組合をつくる権利・加入する権利」がある。これは基本的人権だ。だから、会社に「あなたはうちの会社の組合には入れません」などとシャットアウトする権限など、そもそもないのだ。だいたい、「うちの組合」などと、労働組合を会社の一機構として見ている、その姿勢からして時代錯誤だ。

 友人も、そのあたりは十分承知している。だが、現実には、これって、結構面倒な話なのだ。例えば、会社に代わって、当事者の労組が「当組合の規定上、あなたを加入させるわけにはいかないのです」と言ったらどうか、とか。たしかに組合には、組合員の資格とか範囲を、自主的に規約で定める権利がある。だが、その趣旨は、会社の利益を背負った人物の加入などを防ぐことが主たる目的であって、恣意的であったり差別的であったりしてはならない。本来の趣旨は会社の利益代表者(人事部長など)の加入を防ぐのが目的だ。だから、雇用形態が違うことで組合加入に制限を設けるというのは、会社の都合が反映されているだけで、組合側に根本的な事情や、理由はない。

 もちろん、そこのところはわかっている。が、組合規約の変更などすぐには実現しそうもないし、その上、そんな御用組合っぽいところに加入してもそれほどメリットもない。「だから…、個人加盟労組に加入することにした」と友人は言う。

 会社には個人加盟労組に加盟したことは、当面、通知しないという。

「だって、加盟したことを通知すべき義務はないだろ。もちろん、なにか要求したり、会社から不当な扱いを受けた場合などは、改めて個人加盟労組員であることを表明して、堂々とたたたかうさ。それまで覆面組合員だ。本来、隠す必要もないし、組合加入が理由で解雇するなら、いわゆる『黄犬契約』という典型的な不当労働行為だから、会社にそんなことできるはずもないこともわかっている。でもさ、まあ、あえて力勝負をするばかりが能でもないだろ」

 なるほど。したたかなものだ。労働組合についての知識も十分だし、鍛え抜かれた戦闘性に加えて柔軟な対応力を感じる。原理原則を守りつつ、見事に不要な摩擦やリスクをさける知恵もある。企業組合への気遣いも感じられる。何て言っても同じ職場のなかまだから。暇は、おおいに感心した。

 実はこれ、すべて実話である。会社や、企業労組の知らないところで、個々の労働者はしたたかに力をつけてきている。