日本野球界に米メジャーに負けない組織を創ろうという気概はないのか?
玉木 正之
たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)
今年の日本の野球界は、米大リーグ(MLB)の東京シリーズで開幕――との話題を先月号の本欄に書いた。テレビや新聞のマスメディアは、こぞって大谷、山本、佐々木、今永、鈴木らの日本人メジャー選手の活躍を報道し、開幕シリーズ後もMLBの話題を大きく取りあげ続けている。が、これは本当に喜ぶべきことなのか?
実態としては、日本の野球市場や優秀な日本人野球選手とファンをMLBに奪われ、日本の野球界がMLBの二軍(選手やファンの供給組織)に堕しただけではないのか?
だからメディアからは「情けない」「恥ずかしい」といった声をあげるジャーナリズムが現れても良いはずなのに、そんな声は全く出なかった。が、過去にはそういう真っ当な意見を述べる人物もいた。「アメリカ人は自分たちの野球をワールドシリーズと称して世界ナンバーワンを自認している。それに対して日本がメジャーの二軍のような存在にならないためには(略)日韓台豪でリーグを作る。地球を東西二つに分ける二大リーグを作らなきゃ。それを日本人ができなくちゃダメですよ」(岩波書店『世界』02年5月号「玉木正之連載対談スポーツで語る新世紀第10回より)
このように熱弁をふるってくれたのは、かつて「アマ野球界の首領」と呼ばれていた山本英一郎氏(当時82歳)。
山本氏は米メジャーがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を創る前に、日米プロ野球の優勝チームが戦うスーパー・ワールドカップを企画したが、9・11同時多発テロや日本のプロ球界(NPB)の非協力的態度で実現しなかった、との苦い経験も話してくださった。
以来四半世紀。日本球界の関係者は米メジャーから利益のオコボレに与(あずか)ろうとする情けない人しかいなくなった?