「女性の過労死」

     

                     竹信 三恵子


 たけのぶ みえこ  朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。


(4) 長時間労働への評価

 

 長時間労働は、代表的な過労死の原因とされ、働き過ぎの男性の問題とも思われてきた。だが、長時間労働は、男性以上に女性の昇進要件となっているという研究がある。

 加藤隆夫コルゲート大教授、川口大司一橋大教授、大湾秀雄東大教授の2013年の共同研究によると、昇進を決める際の評価にはジェンダー差がある。ここでは、(1)長時間労働は男性の昇進率を高めることはないが、女性では昇進率に大きく影響する(2)人事考課の結果が男性では昇進率を高めるのに女性では高めていない――というのだ。

 つまり、男性は、妻の支えを前提に、会社の求めるままに長時間働けることが当たり前とされているため、その上に立って仕事の評価が登用基準になり、女性は、仕事の評価以前に長時間働いていないと昇進できない、ということだ。

 シカゴ大学の山口一男教授は、この研究結果について、女性には不利な「長時間労働ができるかどうか」が女性の登用の要件とされ、かつ、人事考課がどうであろうと女性は管理職昇進率の低い職に配置されるという不公正な状況を示唆していると述べている。

 こうした中で「総合職」などの「男性に伍して働く」立場に置かれた女性は、会社の評価自体を諦めてしまうか、理不尽な長時間労働でも男性以上に過剰適応しようとするかの二者択一を迫られる。

 後者へ追いやられた女性は、パフォーマンスが上がろうと上がるまいと会社に居続けようとし、疲弊して倒れる。

 長時間労働は家事や育児との両立に不利、というだけではない。会社に認めてほしいという会社員としての「普通」の思いが、女性を男性以上に追い詰める。女性の過労死は、こうした土壌からも生まれる。